月夜に沈むアイリス



その瞳はあまりに美しく、何もかも見透かされているのではないかとすら感じさせる。見つめたら逃れることは敵わなそうだ、とも。畏怖すら覚えさせるその瞳、しかしその透き通る双眸を俺は嫌いではない。

窓から吹き込む夜の風が、互いの髪を乱した。薄明かりの中相対する二つの人影。電灯の灯されない生徒会室は、昼間の喧騒とはまったく異なった空気を帯びている。たとえ室内に居る人間が、昼間のその喧騒の中にあった一員であってもだ。

「わたしが貴方を止めるとでも思った?」

はその怜悧なる瞳をもって、射殺すように。偽りだらけの自分が暴かれていくような恐ろしさすら与えながら。真っ直ぐな視線を外そうとしない凛としたその姿は昼間の彼女とはあまりに対照的で、思わず感嘆するほどだ。

「わたしは貴方を止めはしないし、責めもしない。貴方が何故ブリタニアを憎むのかなんて、興味もないし、訊く気もないわ」
「それは有難いな。そして同時に、俺も同じさ」
「それは、わたしのことを解っていて、そんなことを言うのね」

肯定も否定もしない。 判断はあくまで彼女自身に任せてやる。は静かに目を伏せ、そのことで俺はまるで解放されたかのような気分を味わう。まったくもって可笑しなことに。

この力を使って彼女を操ることを考えないわけではない。しかしそれを実現しようにも言いようのない虚無感が自身を襲い、それを咎める。目的のためなら手段を選ぶつもりはなかった。けれどあえなくその決意は覆される。
自身が彼女に求める、絶対的な何か。縛られているのは、どちらだ。

「服従させることだって、出来るのでしょう?」
「それを望むか?」
「それを望む?ルルーシュ・ランペルージ」

可笑しい。やはり見透かされているのか、この瞳には。そう思うと自然と口の端が上がる。伏せられた目は再び開かれていて、透き通る双の瞳と焦点が合う。

「なら、付いてくるか?
「愚問だわ」

そうしては膝を折る。差し込む月光の中、差し出した手の甲に触れた唇。これは契約、そして誓いの証。そうしては、澱みのない瞳で真っ直ぐに此方を見上げ、そして紡ぐ。


「我が愛しのルルーシュ・ヴィ・ブリタニアに絶対の忠誠を」


CLOSE君となら、何処までも