メフィストフェレスたる頃



「ルルーシュ!あんたまた呆けてたでしょ!!そんな暇があったらさっさと手を動かす!」

ミレイからの檄が飛ぶ。いつものように。叱られた俺を見てくすくすと笑うシャーリー。調子に乗って野次を飛ばすリヴァル。ニーナは僅かに困ったような顔をして、その横ではちらりと俺を一瞥して苦笑する。まったく、いつも通りだ。日常とは、こういうものか。

「わかってますよ!ちょっとボーっとしてただけですって!」
「それを呆けてるっていうのよ!!」

ミレイとのコントのような掛け合いに皆が一段と笑い出し、生徒会室が和やかな空気に包まれる。
我ながら演技が上手くなったものだと感じる。おどけた態度で振舞って、どこにでも居る平凡な学生を演じてみせる。皆はそれを俺の本質と信じ込み、その裏で真の俺は着々と世界を覆すための歩を進める。薄っぺらな世界だ。

ブリタニアへの復讐を果たすため、自らを嘘で塗り固めた。皆とは明らかに異質な俺は、この陳腐で平和呆けした生徒会室には、まったくもって不釣り合いじゃないか。

「ルルーシュ、ちゃんとやらないとあとで会長の怖〜い制裁が待ってるわよ」
までそんなこと言うなよ・・・」

白々しい演技だ。俺も、そしても。


は聡明な女だ。この狭い空間において異質な俺を初めて認識した人物。学校内で俺の秘密を知る唯一の人間。そして彼女は自分に付いてくることを約した。
互いに目的が同じであっただけだ。その達成のために手を組んだに過ぎない。役に立たないようであれば切り捨てるし、利用できるならばとことん利用するつもりだ。は恐らくそれをわかっていて俺に従っている。

さりげなくの姿を窺っても、彼女からそんな様子は微塵も感じられない。たとえば今の彼女が苦笑しながらやや気だるげに指先で生徒会用の資料を弄んでいるいるように。どこから見ても、何の変哲もない一学生だ。あの日垣間見せた彼女の本性は完全に覆い隠されている。隠された其れを知っているのが恐らく自分だけであるのかと思うと、優越感すら感じる。


「ハイ、もういいから、さっさと仕事片付けるわよ!」
「はぁーい」
「わかりましたよ、会長」

パンパンと手を叩きながら言うミレイの言葉に俺の意識は引き戻される。適当に返事を返し、そして事はひと段落する。相変わらずの和やかな空気。

「このひと仕事が片付いたら、皆でパァーっとご飯でも食べに行きましょうか!」
「いいっスね〜」
「あっ、わたしまた会長の手料理がいいです!!」
「ふっふ〜ん、任せなサイっ!」

作りモノの笑顔。偽りの自分。疑う者など、誰も居ない。

不意にと目が合う。その瞬間、息を呑んだ。その瞳にはあの夜と同じ光が宿っており、否が応にも彼女の意思を強烈に感じさせる。周囲の人間は気付いていないのだろう。日常とは一線を介した世界。
やってやる、お前の望むままに。そう思い口の端を吊り上げた。


CLOSEいつか失われることを知りながらも