「しまざきー、しまざきー」
「なんだよ

白球を追って容赦なくしごかれる日ごろの疲れを癒すためにこの10分という短い休み時間をも駆使して少しでも睡眠をとろうとうつ伏せになった矢先、後ろの席から間の抜けた声と共に背中を突いてくるから気だるげに身を起こし、振り返りざまになんだと問えば「お客さん」と言いながら教室後ろの入り口に顔と人差し指を向けるので俺もそっちに目をやることにする。ここまでおよそ5秒弱。

「なんだヤマちゃんか」
「おーすしまざきー」
の真似すんな、なんか気持ち悪いぞソレ」
「ああ久しぶりさん」

十中八九俺に用があって来ただろうに俺をシカトしてに挨拶するヤマちゃん。べつにいいけどさ。

「あー久しぶりだねー。えっと・・・山川くん・・・?」
「ヤマちゃんでいいよー」
「いい加減名前覚えてやれよ山ノ井だよ。ヤマちゃんもサラッと流すなっつの」
「うんそうだ山ノ井くんだ」
「俺としてはなんでもいいけどね」
「いや良くねえだろ」

なんだか最近ツッコミが板に付いてきた気がする。非常に不本意だが。
ヤマちゃんのマイペースっぷりは前からよく知っていたが、のそれもヤマちゃんに劣らないということに気付いたのはごく最近だ。究極にマイペースな二人が織り成す奇妙な空間の狭間で俺が少しだけ疲れていることに誰か気付いてくれ・・・とは言わない。

「で、何の用だよ。教科書でも借りにきたのか?」
「うん半分はそれ。あ、日本史な」
「あ、俺今日持ってねえや。たしか日本史ねえし」
「慎吾のくせに教科書持って帰ってんの?」

ニヤニヤすんなムカつく。まあいつものことだけど。

「河合のとこでも行ってこいよ。あいつならきっと持ってんだろ」
「あ、わたし持ってるよー」
「お、ラッキー。借りていい?」
「どうぞどうぞー」

机から探り出した教科書をにこやかに差し出す

「やめとけ、コイツに貸したら絶対落書きとかなんか変な仕掛けされるぞ」
「期待してて待っててよさん」
「おっしゃ!どんどこいだよ!」
(いいのかよ・・・)

の瞳が輝いたのを俺は見逃さない。ここはふつう引くところだろ。なんでそんなにノリノリなんだ。やっぱり俺はがわからない。とりあえず普通の女子とは少し、いや大分ズレていることだけは確かだと思うが。

「じゃあありがとなー」

とか言って教科書片手にこちらも同様にこやかに立ち去ろうとするヤマちゃんを俺は慌てて呼び止めた。

「待てよ、さっき『半分は』って言ったろ?まだなんか用あるんじゃないのか?」
「いやそれももう済んだからー」

などと若干意味ありげに言ってヤマちゃんは今度こそ我が3年6組の教室から出て行った。あいつだけは本当に読めないから困る。はぐらかされたままなのも悔しいので部活のときにでも問い詰めてやろうと思う。
不意に教室内が静かになった気がしたので前を見てみれば、教壇にはすでに数学教師の姿。

「うわ、先生来ちまったじゃんかよ。寝ようと思ってたのになー」
「ご愁傷さまー。いいじゃん授業中寝れば」

にへら、と笑いながらのの言葉にまあそれもそうだと思ったけれど、どこからともなく聞こえる「起立ー」の声にとりあえず今はガラガラと椅子を引きずる音を立てながら仕方なく立ち上がるしかないのだ。

気付けば山サン出張りすぎ(笑)


島崎くんとそのクラスメイトの別段なんでもないはなし



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